和田 信治
GS業界・セルフシステム
2005-05-16
「セルフスタンド日進東劇場」第2話、「オヤジ警察に電話する」の巻─。
ゴールデンウィーク中のこと、混雑する店にタンクローリーがやってきた。ローリーの通り道となる場所で給油していた客が出て行った直後、すぐまた次の車がそこへ入ってきた。従業員のYは空いている別のレーンへ誘導しようとしたが、客はYの指示をまったく無視して車から降り、プリカを買いに券売室へ向かおうとした。その様子を見ていたローリーの運転手が、軽くクラクションを鳴らした途端、その客(50歳から60歳ぐらいのオヤジ)はブチ切れて、「何だコノヤロウ!」と運転手に罵声を浴びせた。これにアタマに来た運転手、「お前、店員さんが誘導したのがわからなかったのか!」「やかましい、客が優先だろうが!」─。
見かねたYが、「お客さん、あっちのレーンへ移動してもらえませんか?タンクローリーを通さないとほかのお客さんが入れないんですよ」となだめようとすると、オヤジはますます激昂し、「お前ら、俺は客だぞ!社長を出せ、社長を!お前らみんなクビにしてやる!」とわめく始末。仕方なくYは私の携帯電話に電話。自宅で電話を取った私は、Yから経緯を聞いたあと、そのオヤジを電話口に呼んだ。
「お宅の店は客よりもタンクローリーを優先させるのか!?」
「ええ、そうです。店内の安全を最優先にしているので、タンクローリーをなるべく早く所定の場所へ誘導させるようにしています」
「…それにしたって、俺は客だぞ!」
「お客様でも、従業員の指示には従っていただきます。それがいやであれば、ご来店いただかなくて結構です」
「それでいいのか?本当にいいのか?」
「はい、結構です」
多分、私が“申し訳ございません”とでも言うと思ったのだろう。あっさり「来なくていい」と言われたことがよほど腹立たしかったらしく、そのオヤジは何と警察に電話。横で聞いていたYの話では、“いまガソリンスタンドで命の危険を感じるような目にあった”などと言い立てたらしい。(笑)ほどなくしパトカーがやってきたが、事情を聞いたお巡りさんは逆にオヤジに説教。「アンタねぇ、そりゃあ店員さんの指示に従わなきゃいかんよ」─。
それにしても、こういうしょうもない騒ぎを起こすのは決まって年齢50~60歳のオヤジである。彼らはかつて、ガソリンスタンドで最も媚びへつらわれていた人種である。仕事をしている時は、法人掛売客としてへつらいを受け、マイカーに乗れば、現金会員様としてへつらいを受けてきた。やれタオルを貸せ、やれマットを洗え、やれ粗品をよこせとわがままを言いたい放題だったオヤジたちにとって、自分でノズルを握って給油をするなど、およそ受け入れがたい屈辱的な行ないなのだ。しかし、こうセルフが増えてくるとそうも言っていられない。しかも、彼らが最も恐れるカミさんからは、「アンタ、ガソリンは安い所で入れてきてよ!」と命じられているから仕方がない。そこで、その腹いせをセルフスタンドの従業員にぶつけるという訳だ。
セルフスタンドに戸惑い、憤り、駄々をこねるオヤジ族─。私も来月43歳になるりっぱなオヤジの一人だが、こんな往生際の悪いオヤジにはなりたくない。
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